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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)4407号 判決

原告 山本解寿 外一名

当事者参加人 高柳有限会社

被告 喜多綱市

主文

一、原告ら並びに参加人の請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は、原告ら並びに参加人の負担とする。

三、当庁昭和三一年(モ)第四七五三号仮処分執行取消決定は、これを取消す。

四、第三項にかぎり仮りに執行することができる。

事実

第一、原告の被告に対する請求

一、求める判決――請求の趣旨

被告が訴外志賀竹夫に対する東京地方裁判所昭和三〇年(ヨ)第四四八九号不動産仮処分申請事件の仮処分決定に基いて昭和三〇年八月一一日別紙目録の物件につきなしたる仮処分執行はこれを許さない。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求原因

(一)、被告は訴外志賀竹夫に対する東京地方裁判所昭和三〇年(ヨ)第四四八九号不動産仮処分申請事件(以下本件仮処分という)につき昭和三〇年八月九日「債務者(志賀竹夫)の別紙目録〈省略〉の建物(以下本件建物という)に対する占有を解いて債権者(被告)の委任した東京地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。執行吏は債務者にその使用を許さなければならない。但し、この場合においては執行吏はその保管に係ることを公示するため適当な方法をとるべし。債権者はこの占有を他人に移転し又は占有名義を変更してはならない。」旨の仮処分決定を得て同月一一日その執行をした。

(二)、しかし、本件建物は元下田千代の所有であつたところ、原告らは、本件建物について行われた競売手続(東京地方裁判所昭和三〇年(ケ)第一四八六号事件)において、昭和三一年三月二一日これを競落により所有権を取得し、同年四月二日その所有権取得登記を了したものである。

(三)、したがつて、本件建物は原告らの共有に属するものであるところ、被告のなした右本件仮処分執行により、右原告らの本件建物についての所有権行使を妨害されている。

よつて、原告らは被告が本件建物についてなした右仮処分執行の排除を求める。

三、被告の主張――抗弁――に対する反駁並びに認否

(一)、被告の積極的主張――抗弁――(一)項は認める。

(二)、同(二)項は下田千代が志賀竹夫と共謀して虚偽の理由を主張して被告主張の仮処分をなしたものであること、本件仮処分が占有訴権を本案とするものであることは否認、他は認める。

(三)、同(三)項は争う。

被告の占有が所有権者たる原告らに対抗しうべき権原に基くものであるならともかく、かかる権原の有無にかかわらず、占有権が存することのみからは当然には原告に本件仮処分執行を忍受する義務は存しない。

(四)、同(四)(五)(六)項は争う。

(五)、同(七)項は争う。

仮りに、下田千代が被告主張の如き行為をなしたとしても、原告らはそのような事情を全く知らず、競売手続により所有権を取得したものであつて、何ら下田の被告主張の如き地位を承継するいわれはない。

(六)、同(八)項は、原告らが志賀から本件建物の引渡をうけたことは認める。他は否認する。

仮りに被告の志賀に対する占有回収訴権が理由のあるものとしても、同訴訟において被告が勝訴し占有を現実に回復してはじめて遡及的に被告に占有が存したものとみなされるのであつて、単に訴を提起したことのみにより占有が継続するとみなすことはできず、また、後記再抗弁(一)のとおり原告らが志賀から移転をうけた占有は志賀が被告の占有を侵奪により取得した占有ではなく、志賀が本件仮処分執行取消により執行吏から改めて引渡をうけたことにより取得した占有であるから、何ら瑕疵のない占有の転移をうけたものである。

仮りに、そうでないとしても原告らは志賀が被告の占有を侵奪したものであることは知らなかつた。

したがつて、原告らは被告に本件建物の占有を返還する義務はない。

(七)、同(九)項は争う。

原告らは志賀の占有を保護するどころか同人の占有を排除すべく努力していたものである。

(八)、同(一〇)項は、本件建物に被告主張のとおりの各登記のあることは認める。他は否認。

原告らが本件建物についての各持分を他に譲渡したことはない。

(九)、同(一一)項は、1は認める、同項2はそのうち本件建物の所有権が被告主張のとおり石川禎、下田千代、原告らへ順次移転し、その各登記がなされたことは認める。

四、再抗弁

(一)、志賀竹夫は昭和三〇年五月二一日本件建物の占有を開始したものであるが、同人は同年八月一一日本件仮処分が執行される際、任意本件建物の占有を放棄して退去し、被告が本件建物の直接占有をするに至つたのであるから、志賀の占有侵奪行為があつたとしても、右により侵奪状態は終了し、その後昭和三一年八月一五日仮の処分として本件仮処分執行の取消決定があり、同月一七日同執行の取消執行がなされ執行吏は本件建物の占有を志賀に移し、次いで同日原告らは志賀から本件建物の引渡をうけた。

したがつて、いずれにしても、被告は本件建物を占有していないのであるから、被告が占有していることを前提とする被告の主張は理由のないものである。

(二)、被告の本件建物についての賃借権はつぎの理由により消滅した。

1、被告は昭和二〇年三月分以降昭和二一年九月末日に至る一九カ月分の家賃合計七、六〇〇円の支払を遅滞したので当時の賃貸人石川禎は被告に対し昭和二一年一〇月二一日付、その頃到達の内容証明郵便をもつて右延滞賃料を同郵便到達後三日以内に支払うよう催告し、若し同期間内に支払わないときは賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなしたが、被告は右期間内に右催告賃料の支払をしなかつた。

2、仮りに、右解除が認められないとしても、賃貸借契約において、被告は賃貸人の承諾なくして本件建物の原状を変更しないことを約定し、若し、被告がこの約定に反したときは催告を要せずして解除しうる旨定められていたところ、被告は昭和二五年九月頃賃貸人石川禎に無断で本件建物に対し増改築をなした。石川は右無断増改築を理由に被告に対し同年九月三〇日到達の内容証明郵便をもつて賃貸借契約解除の意思表示をした。

3、仮りに右解除が認められないとしても、被告はその後も引続き賃貸人石川に無断で増改築及び造作、設備模様替等をなし、これは建物の通風、採光、水はけをも閉してしまう結果を来し、また建物の保存の点からして非常に危険状態に陥らしめるようなものであつた。

また、賃料は昭和二五年八月分から一月一万円に値上げの合意ができたところ、被告は昭和二五年九月分以降昭和二七年三月分までの賃料を遅滞したので賃貸人石川は被告に対し右無断増改築、賃料遅滞を理由に昭和二七年四月二八日到達の内容証明郵便をもつて賃貸借契約解除の意思表示をした。

4、仮りに、右解除が認められないとしても被告は石川が被告に対してなした本件建物に対する占有移転禁止の仮処分命令(東京地方裁判所昭和二五年(ヨ)第一七三号)の執行中なるにかかわらず、昭和二八年六月二五日賃貸人石川に無断で本件建物の二階全部を訴外竹下文治、高山静夫に賃料一カ月一五万円で転貸し、同人らは同年七月一日から同所で喫茶店を開業し、同月一三日から訴外伊東一が右営業を承継するに至つた。そこで石川は被告に対し、同年八月二六日到達の内容証明郵便をもつて右無断転貸を理由に賃貸借契約解除の意思表示をした。

5、仮りに、右解除が認められないとしても、被告は昭和二六年三月分以降昭和二七年三月分までの賃料合計一三万円の支払を遅滞したので、これを理由に賃貸人石川は被告に対し昭和二九年二月六日到達の内容証明郵便をもつて右延滞賃料を右郵便到達後三日以内に支払うよう催告し、若し同期間内に支払わないときは賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたが、被告は右賃料を右期間内に支払わなかつた。

6、仮りに右解除が認められないとしても、下田千代が昭和二九年一一月九日賃貸人の地位を承継後、被告は昭和二九年一一月頃から下田には無断で本件建物につぎのような増、改造をなした。

(イ)、建物の正面出入口を一カ所増設

(ロ)、従前から存した階段を取り外し、その階段のあとに当る二階部分への出入口に新たに梁を差し渡して床板を張つてしまつた。

(ハ)、本件建物の二階へ通ずる階段を従前存した個所と異る個所に新設し、そのため二階の梁を一部除去し、かつ階段の下部を廻り階段とし、その周囲に壁を新設した。

右工事の途中、下田は被告に対し工事禁止の仮処分命令を申請し、昭和二九年一一月一七日その旨の仮処分決定を得てその頃これを執行したところ、右執行当時右工事は半分程度しか完成していなかつたが、被告は同仮処分執行を無視して前記の如く工事を完成してしまつたものである。

そこで、下田は被告に対し昭和三〇年二月二七日到達の内容証明郵便をもつて右無断増改築を理由に賃貸借契約解除の意思表示をした。

7、仮りに、右解除が認められないとしても、原告らは賃貸人となつた後、昭和三一年六月一一日被告に対し賃貸借契約解約の申入をなした。

しかして、右申入れにはつぎのとおり正当事由がある。

(イ)、原告らは、岩橋勝一郎、下田千代らと共同して本件建物を使用して料理飲食店を経営する準備中である。

(ロ)、本件建物は原告らが所有権取得当時すでに土台、基本支柱等に腐朽個所が多く、殊に二階、三階の被告がなした無断増・改築部分が建築法規違反の構造として監督官庁から同部分の撤去を勧告されており、早晩大修繕・工事を実施する必要に迫られている。

(ハ)、被告は前述の如く約定賃貸の支払を遅滞し勝であり建物の重要部分について無断で増改築をなした。

(ニ)、被告は昭和二八年から昭和二九年にかけて本件建物についての賃借権を他に譲渡すべく物色中であつて、被告自ら本件建物を使用する意思はなくなつている。

(ホ)、被告は元来貸金業者であり、被告が本件建物に対してかけた投下資本は昭和二八年一〇月末頃までの社交喫茶店及びパチンコ店経営による収益によつてすでに回収ずみである。

以上の事情を総合すると原告らにおいて解約申入をなすにつきその正当事由が存するというべきである。

したがつて、賃貸借契約は前記解約申入後六カ月を経過する昭和三一年一二月一一日の経過とともに終了した。

五、再々抗弁に対する認否

否認する。

第二、原告の請求に対する被告の答弁

一、求める判決

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、請求原因の認否

請求原因(一)(二)項は認める。他は争う。

三、積極的主張――抗弁

(一)、被告は昭和一五年六月二〇日本件建物を当時その所有者であつた石川禎から賃借しその引渡をうけて以来占有をしていたところ、石川はその後本件建物を下田千代に売渡し、昭和二九年一一月九日同人のため所有権移転登記がされた。

(二)、しかして、被告が本件建物を占有しているにも拘らず、下田は本件建物を所有権取得後志賀竹夫と共謀して、同人が単独で不法に本件建物を占有していると虚偽の理由を主張して同人を債務者として仮処分申請をなし(東京地方裁判所昭和三〇年(ヨ)第二八五八号事件)昭和三〇年五月二五日同裁判所より本件建物につき志賀の占有を解き執行吏にその保管を命ずる。執行吏は現状を変更しないことを条件として志賀にその使用を許さなければならない。志賀はこの占有を他に移転し又は占有名義を変更してはならない。旨の仮処分決定を得、同年五月二六日その執行をなした。これによつて被告は本件建物の占有を侵奪され、志賀が本件建物を占有する結果となつた。そこで、被告は右執行に対し執行方法に関する異議を申立てて右仮処分執行の取消決定を得、同年八月三日その執行の取消をうけたうえ、占有権に基く占有回収の訴を本案として志賀に対し本件仮処分を申請し、その仮処分執行により志賀を本件建物から退去せしめたものである。

(三)、かように、本件建物は本件仮処分前から被告が占有していたところ、志賀に占有を侵奪され、同人が占有をするに至つたものであつて、原告らが本件建物の所有権行使が制限されるのは、第一に志賀が、第二に被告が本件建物を占有していたこと自体によるもので、決して本件仮処分執行が新たに原告らの所有権行使を制限したものではない。

云いかえるならば、本件仮処分執行を取消しても本件建物の占有は志賀または被告に復帰するのであるから、原告らの所有権行使が妨げられる状態は仮処分執行の取消により消滅せず、結局、本件建物に志賀若しくは被告の占有が存する以上、これによつて原告らの所有権行使は制限をうけていることとなる。しかして本件仮処分執行は右のような状態を暫定的に固定するに止まり、それ以上の制限を加えるものではないから、当然所有権者は占有権者の右執行を忍受すべき義務がある。

もつとも、本件仮処分執行の結果、本件建物は執行吏の占有に移されたけれども、この執行吏占有は被告の占有の反射で、被告の代理占有の様なものであるから、被告の占有権には消長がない。

(四)、また、このように、第三者の占有が存する場合、所有権者は、この占有の排除を求めることなく、占有権保全のためになされた仮処分執行の排除を求めることは許されない。したがつて、若し原告らにおいて執行排除を求めんがためには先ず志賀に対しては本件建物の引渡の訴を提起しこれに勝訴することが前提である。しからずとしても、本件訴訟において志賀を共同被告として同人に対し本件建物の引渡を訴求すべきである。

そうしないと、本件訴訟に原告が勝訴した場合本件仮処分執行は排除される結果、占有侵奪者である志賀の占有を保護することになるからである。

以上の如き方法によらない原告の本訴提起はそのこと自体で失当である。

(五)、本件仮処分は本件建物についての被告の占有権に基く志賀に対する占有回収訴権を本案とするものであるところ、かかる仮処分による執行に対しては原告らはその所有権をもつて第三者異議の事由となすことは民法第二〇二条の趣旨により許されないと解すべきである。何故なら、若し本件仮処分執行が所有権者たる原告の異議により取消さるべきものであるとすると、被告は占有権の妨害に対して仮処分による保護をうけることができなくなり、これは占有保護の制度をもうけた趣旨に反するからである。

(六)、本件仮処分執行が、仮りに原告らの所有権行使を妨げるものであるとしても、それは適法な仮処分執行の結果生じたものであり原告らはこれを忍受しなければならない。本件仮処分の如きいわゆる断行の仮処分執行が第三者の権利に対し何らかの障害を与えることがあるのは時には免れ得ないことであつて、これはかかる仮処分の制度を設けたことによるやむを得ざるところである。これに対して第三者が異議を主張しうるのは、執行機関が筋ちがい等違法に第三者の権利を侵害するように不法に執行をした場合にかぎられる。

(七)、原告らの前所有者下田千代は前述の如く被告の占有する本件建物に志賀を不法侵入させたものであるから、被告に対し志賀を退去させる義務を負つていた。したがつて、下田は被告の志賀に対する本件仮処分執行に対し、異議を主張しても、それは信義則に反し許されないところであつた。しかるところ、原告らはかかる下田の地位を承知のうえ、本件建物の所有権を取得したものであるから下田の右の如き地位をそのまま承継するものと解され、原告もやはり被告のなした本件仮処分執行に対して異議を主張することは信義則に反して許されない。

(八)、仮りに右主張が理由がないとしても、原告らは志賀から本件建物の占有移転をうけたものであるところ、原告らは志賀が被告の占有を侵奪したものであることを知つて引渡をうけたものである。しかして、被告は志賀に対して所定期間内に占有回収の訴を提起しているものであるからなお占有権を有するものとみなされ被告は原告らに対しても占有回収訴権を有し、原告らは被告に対し本件建物を引渡す義務がある。したがつて、被告の本件仮処分執行を忍受する義務がある。

(九)、また、本件第三者異議の訴は被告の占有を侵奪した志賀の占有を保護するか、又は志賀を利用して被告の占有を奪うということを目的とするものであるから、原告らにおいて本件仮処分執行に対し異議を主張することは公序良俗又は信義則に反して許されない。

(十)、仮りに、以上の各主張が理由のないものであるとしても、原告らはすでに、本件建物の所有権を喪失している。即ち、原告山本の持分二分の一は同原告から昭和三一年九月二六日梁万基、同年一〇月二六日落合義男、同三二年四月二六日日本土地株式会社に順次売買により譲渡され、また原告高柳の持分二分の一も同日同会社に売買により譲渡され、更に同会社は昭和三二年七月一日落合義男に売買によつて所有権を譲渡し、同人は持分二分の一を昭和三二年七月八日売買により佐藤ミヨシに譲渡したものであつて、右各登記がなされている。

(十一)、仮りに、原告らが本件建物の所有権者であるとしても、被告は本件建物につき原告らに対して賃借権を有する。即ち、

1、被告は昭和一五年六月二〇日石川禎から当時その所有にかかる本件建物を賃料一カ月四〇〇円の約で敷金三カ月分一、二〇〇円及び造作等の代金名義で八万円を支払つたうえ、期間の定めなく賃借し、即日賃貸人たる石川から本件建物の引渡をうけた。

2、しかるところ、本件建物の所有権は昭和二九年一一月九日下田千代に譲渡され、次いで原告が競落によりその所有権を取得し、右各登記を了したものであるから、右被告の賃借権は右所有権移転にともなつて各所有者に承継されたものである。

したがつて、被告は原告らに対し右賃借権を有するものであり、原告らは本件仮処分執行を忍受する義務がある。

四、再抗弁に対する認否

(一)、再抗弁(一)項は本件仮処分執行が昭和三〇年八月一一日なされたものであること、昭和三一年八月一五日仮の処分として本件仮処分執行の取消決定があり、同月一七日同執行の取消執行がなされ本件建物の占有を執行吏が志賀に移転したことは認める。他は否認。

(二)、再抗弁(二)項につき

1、同1項、原告ら主張のとおりの催告並びに解除の意思表示が賃貸人石川からあつたことは認める。他は否認。

2、同2項、増改築したことは認める。これは、慣習上許される程度のものであり、賃貸人石川もこれを承諾しており、またこの増改築により本件家屋の価値が増加しており、貸主には何ら不利益を及ぼさないものであるから、これを理由に解除することはできない。

3、同3項、増改築したこと、賃料につき原告主張のとおり値上の合意があつたこと、解除の意思表示のあつたことは認める。

他は否認。前2項と同一理由により増改築を理由に解除は許されない。また賃料については被告は渡辺弁護士をして持参提供したが受領を拒絶されたものである。

4、同4項、原告主張のとおりの解除の意思表示が賃貸人石川からあつたことは認める。他は否認。

被告において使用人を募集したところ、石川と岩橋勝一郎が共謀して、不良である竹下文次、高山静夫らを応募させて被告に竹下、高山らを雇わせしめた、ところが、その後同人らは不法に本件建物の一部を占拠するに至つたので、被告は警察に告訴して同人らを本件建物から退去せしめたものであつて、建物の一部を不法占有されたもので転貸をしたものではない。

5、同5項、原告ら主張のとおり賃料の催告並びに解除の意思表示を賃貸人石川からうけたことは認める。他は否認。

原告ら主張の賃料は全て期限内に持参して提供したが賃貸人石川にこの受領を拒絶されたものである。

6、同6項、原告ら主張のとおりの解除の意思表示が賃貸人下田からあつたこと、本件建物の正面出入口を一個所増設したこと、二階への階段の位置を変更してつけかえたこと原告ら主張の仮処分執行がなされたことは認める。

他は否認。

右建物の改造は、本件建物利用上の便宜若しくは朽廃等により危険であつたためになしたもので、これを理由に解除することは許されない。

7、同7項、原告ら主張のとおり解約の申入れが原告らからあつたことは認める。

(イ)、同項(イ)不知。

(ロ)、同項(ロ)否認。

(ハ)、同項(ハ)、増改築したことは認める。他は否認。

(ニ)、同項(ニ)、被告が賃借権を他に売却せんと企てたことは認める。しかし、これは被告は石川、下田等家主から不法な仮処分ないしは暴力団を利用しての種々の妨害をうけたため、本件建物で営業をなすことができないため、やむなく、本件建物の営業を一時他に譲渡しようと考えたのであつて、これをもつて、解約申入の正当事由となすことは信義則上許されない。

他は否認。

(ホ)、同項(ホ)、被告が貸金業者であることは認める。

他は否認。

五、再々抗弁

再抗弁(二)項に対し、

昭和二〇年三月分以降昭和二一年九月末日までの賃料については石川は昭和二〇年三月以前賃料支払を相当期間猶予したものであつて、解除の意思表示当時未だ支払期限は到来していなかつた。

第三、参加人の被告に対する請求

一、求める判決――請求の趣旨

原告の被告に対する請求の趣旨と同一である。

二、参加の理由並びに請求原因

(一)、原告らは本件建物を昭和三一年三月二一日競落によりその所有権を取得し、同年四月二日その登記を了し、その後本訴第三者異議の訴を提起したが、その訴訟係属中原告山本は、自己の有する持分二分の一を昭和三一年九月二六日梁万基に売渡し、同月二九日その登記をなし、同人は同持分を同年一〇月二六日落合義男に売渡し、その旨登記をなし、更に同人は同持分を昭和三二年四月二六日日本土地建物株式会社に売渡し、また原告高柳も同日自己の有する持分二分の一を同会社に売渡し、結局同会社は本件建物の所有権を取得し、同日その旨の登記がなされた。

ついで、同会社は同年六月二六日本件建物を落合義男に売渡し、同年七月一日その登記をなし、更に同人は同月五日本件建物の二分の一の持分を佐藤ミヨシに売渡し、同月八日その旨の登記がなされた。

(二)、本件建物についての右各所有権移転にともない原告らが提起した本件第三者異議訴訟の目的たる権利の譲渡があつたものというべきであるから、現在の持分権者落合義男、佐藤ミヨシは権利承継人として民事訴訟法第七三条により参加ができる筋合である。

(三)、1、参加人は昭和三一年一一月一三日設立された有限会社であるところ、その設立前発起人であつた岩橋勝一郎が発起人たる地位において本件建物につき原告らがその所有権者であつた頃、原告らと賃貸借契約を締結し、参加人は右会社設立と同時に当然に賃借人となり原告らから本件建物の引渡をうけた。

2、しかるところ、本件建物は前記の如く所有権が順次移転し、同移転にともなつて各登記がなされているから参加人は現在本件建物の所有権者たる落合義男、佐藤ミヨシに対し右賃借権を対抗しうるものである。

(四)、しかるに、参加人の右両名に対する右賃借権は本件仮処分執行により行使できないからこの賃借権を保全するため、参加人は原告らと被告間の本件訴訟に参加し落合義男、佐藤ミヨシの両名に代位し、同人らが所有権者として被告に対して有する第三者異議の権利を行使するものである。

三、本案前の抗弁に対する答弁

(一)、本案前の抗弁(一)項につき

本件参加申立は被告のみを相手方とするものであつて原告らは相手方としていない。参加人と原告らの間には何らの争いもないから原告らを相手どる必要がないのである。したがつて、又参加人と原告らの間には対立関係をも構成されず、実質的に利害も相反しないのであるから、参加人原告らの各訴訟代理人となることも許されるところである。

(二)、同(二)乃至(五)項につき、

争う。

四、積極的主張――抗弁に対する認否

被告が落合、佐藤に対し賃借権を有することは争う。

第四、参加人の請求に対する被告の答弁

一、求める判決

参加人の本件参加申立を却下する。

二、本案前の抗弁

(一)、本件参加申立は弁護士広瀬通が参加人の訴訟代理人となつて、原、被告双方を相手方としてなされたものであるところ、同弁護士は当時本訴における原告らの訴訟代理人でもあつた。したがつて、同弁護士は対立当事者双方から訴訟委任をうけ双方の訴訟行為をなしたものであつて、これは、弁護士法に違反し許されないところであり、かかる本件参加申立は不適法である。

(二)、また、本件参加申立が被告のみを相手方とするものであるとすれば、本件参加申立については、民事訴訟法第七一条の適用があるところ、本件参加申立は、本件建物の所有者落合義男、佐藤ミヨシに代位して同人らの権利を行使するものであるが原告らと落合、佐藤間には本件建物の所有権帰属について争いがあるから参加人は被告の他に原告らも相手方として参加申立をしなければならない。しかるに被告のみを相手方とするものであるから本件参加申立は不適法である。

(三)、仮りに然らずとしても、参加人は本件建物の所有権が落合義男、佐藤ミヨシの共有に属すると認定されることを条件として本件参加の申立をなしたものであつて、これは訴を条件付になしたもので、かかる条件付参加申立は不適法である。

(四)、仮りに然らずとするも、前述のとおり本件参加申立は本件建物の所有者落合、佐藤に代位して同人らの権利を行使するというのであるが、代位権を裁判手続により実行する場合は非訟事件手続法第七五条による裁判所の許可を得なければならないのにこの許可を得ずして裁判上の代位をなすものであるから本件参加は不適法である。

(五)、また、裁判上の代位をなさんとするときは代位される者、即ち落合、佐藤において参加人の賃借権を承認する場合にかぎられるところ、右落合、佐藤がその承認をしていないこと明らかである。したがつて本件参加申立は不適法である。

三、請求原因の認否

請求原因(一)項は認める。他は争う。

四、積極的主張――抗弁

(一)、本訴について述べた如く、本件仮処分執行は占有回収の訴を本案とする仮処分の執行であるから、参加人は本権を主張して異議を主張しえない。

(二)、また本訴について述べたとおり、被告は本件建物につき原告らに賃借権を有していたものであるから、その後右参加人主張の如く本件建物所有権の各移転にともない賃貸人の地位は右各所有権者に承継され、現在被告は落合、佐藤に対し賃借権を有するものである。したがつて、同人らは本件仮処分執行を忍受すべき義務がある。

第五、証拠関係〈省略〉

理由

第一、原告らと被告間の本訴請求についての判断

一、請求原因(一)(二)は当事者間に争いがない。

二、被告の積極的主張――抗弁――について(以下事実欄記載のこの項(一)(二)……については、「被告の主張(一)(二)……」と表示する)

(一)、被告の主張(一)乃至(八)の検討

1、争いのない事実

被告の主張、(一)の事実及び昭和三〇年五月二五日当時本件建物の所有者であつた下田千代は、志賀竹夫を債務者として本件建物につき被告主張のとおりの仮処分決定を得、同月二六日その執行をなしたので、被告は右執行に対し執行方法に関する異議を申立て、右仮処分執行の取消決定を得、同年八月三日、同執行の取消をうけたうえ、志賀に対して本件仮処分を執行して同人を本件建物から退去せしめたことはいずれも当事者間に争いがない。

2、被告の主張(三)について

被告は、本件建物については元来被告が占有していたところ、志賀がこれを侵奪して占有をするに至つたものであるから、本件建物の所有者は右各占有により所有権行使の制限を受けており、本件仮処分執行による新たな所有権侵害は何ら存しない、と主張する。なる程、若し被告の本件建物の占有が、所有者に対抗しうべき権原に基くものであるならば、本件仮処分執行により所有者は何らの痛痒を感じないであろうけれども、若し、被告の占有が権原に基かないものである場合に本件の如き仮処分執行がなされ、その結果目的物の占有が執行吏の保管に移されると所有権者は執行債務者でないにかかわらず、被告の占有以外に執行吏占有という状態を自己の所有物のうえに設定され、これは、被告の占有している状態以上の制限を、何ら法律上の義務もないのに、所有権に加えられ、所有権者としては、かかる状態を排除しないかぎり自由に本件建物を利用することができず、又、処分についても事実上障害となることは明らかである。このことは、仮りに本件建物につき志賀の占有が存するとしても、同様である。したがつて、被告が占有権原についての主張をなすなら格別、この主張をなすことなく、占有権のみを主張して本件仮処分執行により原告ら所有者の権利を害することがないという右被告の主張は理由がない。

3、被告の主張(四)について

被告は執行目的物について第三者の占有がある場合は、その所有権者は先ずこの第三者の占有の排除を求めるべきであると主張する。しかし、前項で述べたとおり、本件仮処分執行それ自体も本件建物の所有権者の権利行使につき障害を与えているのであるから、執行目的物に第三者の占有があるなしにかかわらず、所有権者において右執行を忍受すべき義務がない以上、これを排除しうべき筋合である。そして、このことは、右第三者の占有が執行債権者たる被告の占有を侵奪した者であるとしても所有権者が右第三者の承継人その他本件仮処分の効力を受ける者でない以上、所有権に基き執行の排除を求めることができるものと解する。したがつて、この点の被告の主張は理由がない。

4、被告の主張(五)について

被告は、本件仮処分は本件建物に対する被告の占有権に基いて志賀竹夫の不法侵入の排除を求めるものであるにかかわらず、原告らが、所有権を主張して右仮処分執行の排除を求めるのは民法第二〇二条の趣旨に反し許されないというのである。

しかしながら、占有の訴を本件に関する理由で判断することができないのは、その占有の訴の裁判をするときの制限にすぎず、したがつて本案訴訟の当否については専ら、占有関係によつてこれを決すべく、本件に関する理由によることを得ないけれども、一旦かような仮処分が許され、債務名義が成立し、その執行がなされた後は、その執行に対する第三者異議訴訟においては専ら強制執行に関する規定にしたがつて判断すべく、仮処分の本案が占有権に基くものであるか、本件に基くかは問題にせず執行処分によつて目的物に対する第三者の権利行使が制限されてもその制限の性質上かかる侵害を受忍すべき理由がないことを主張して執行の排除を求めうるものであつて、本案が占有権に基くものか否かによつて差異は生じない。本件において仮りに、本件建物についての被告の志賀竹夫に対する本件仮処分の本案が右建物に対する被告の占有訴権を理由とするものであつたとしても、これに基く強制執行の段階に於ては、原告らが志賀竹夫の承継人その他右仮処分の効力を受ける者でない以上、原告らが右建物に対する所有権に基いて右仮処分の執行に対し第三者異議の訴を提起できるのは当然であつて、民法第二〇二条はこの場合適用の余地はないから、この点の被告の主張は理由がない。

5、被告の主張(六)について

被告は本件仮処分の結果、原告らの所有権が侵害されたとしても、それは、適法な手続にしたがつてなされた仮処分執行の結果であるから、原告らはこれを忍受しなければならないと主張する。

しかし、執行機関は執行に当りその目的物の債務者の責任財産への帰属や、これについての他人の権利の有無を認定する権限職責を有しないから、責任財産以外の財産に対し、又は第三者の財産上の権利を侵害して執行が行われる場合が生じうるが、これは執行法上当然には違法なものではない。

しかし執行法上は適法な執行行為であつても第三者との関係では、第三者の権利を侵害する不当なものであるから、この第三者に救済方法として認められたのが第三者異議の訴である。

したがつて、第三者異議の訴は強制執行法上は適法な執行に対しても提起しうることは明らかであつて、違法な執行に対しては他の救済方法によるべきが原則なのであるから、右被告の主張は理由がない。

6、被告の主張(七)について

被告は、下田千代は志賀竹夫をして被告の本件建物の占有を侵奪せしめたものであるから、本来下田は信義則上被告のなした本件仮処分執行に対し異議を主張しえないものであるところ、原告らは右下田から右情を知つて本件建物の所有権を取得したものであるから当然同人の地位を承継したと主張する。

しかし、仮りに被告主張のように下田が志賀をして本件建物に対する被告の占有を侵奪せしめたものであり、これを原告らが知つて本件建物の所有権を取得したものであるとしても、下田は本件仮処分の当事者でもなく、又、原告らは本件建物を競落により所有権を取得したものであつて、下田の一般承継人でもないのであるから、単に右被告主張のような事情の存するだけでは未だ原告らが前所有者下田の被告に対する被告主張のような地位までも承継するものでないことは勿論、原告らの本訴提起を信義則上許されないものということもできない。

したがつて、この点の被告の主張は理由がない。

7、被告の主張(八)について

被告は、本件仮処分執行は、仮の処分により昭和三一年八月一七日取消され、志賀竹夫に本件建物が引渡された後、原告らは志賀が被告の占有侵奪者であることを知りながら同人からその占有の移転を受けたのであるから、被告は原告らに対しても占有回収訴権を有する。したがつて原告らは本件仮処分執行を忍受すべき義務があると主張する。

しかして、右被告主張のとおり本件仮処分執行が取消されたことは当事者間に争いがなく、原告らが昭和三一年八月一七日志賀から本件建物の占有移転を受けたことは原告らの自認するところである。しかし、仮りに被告主張の如く志賀が被告の占有を侵奪したものであり、原告らがこれを知つて、志賀から占有の移転を受けたものであるとしても、右仮処分執行の取消は本訴提起を前提とする民事訴訟法第五四七条、第五四九条によりなされた処分であつて、仮定的なものにすぎず、本件第三者異議の審理ではこの処分の結果生じた事実は斟酌すべきではないところ、右処分の結果生じた事実とは直接のものばかりではなく、右被告が主張するような執行処分取消後に原告らが仮処分債務者から占有の移転を受けたような事実も含むと解すべきである。

したがつて、本件第三者異議の訴の審理においては、なお、本件仮処分執行が存続するものとの前提に立つて判断すべきであつて、仮処分執行取消後生じた志賀から原告らへの占有移転のような事実は考慮すべきではなく、原告らへの占有移転を前提とする右被告の主張は理由のないものである。

8、被告の主張(九)について

被告は、原告らが、本件仮処分執行に対し異議を主張することは公序良俗乃至は権利の乱用で許されないと主張する。

成立に争いのない甲第九号証の一、二、甲第一〇号証の二、甲第一一号証の一、二、甲第一二号証の一、二、三、甲第二六号証、乙第一、七、三三号証、成立の真正につき被告において明らかに争わないから自白したものとみなされる甲第二二号証の五の(ロ)、甲第二二号証の七の(イ)、(ト)、(オ)、同号証の八の(ヌ)、原告高柳本人尋問の結果により成立の真正の認められる甲第二五、二七号証、官署作成部分については争いがなく、他の部分は弁論の全趣旨から成立の真正が認められる甲第二三号証、乙第四、五、三一号証及び証人岩橋勝一郎の証言(後記措信しない部分を除)、原告ら各本人尋問の結果によれば

(1)  本件建物は元、石川禎の所有で、被告は昭和一五年六月二〇日石川から右建物を賃借し、その引渡を受けて占有していたところ、その後右建物は石川から下田千代に譲渡されたものである(この事実は争いがない)が被告の賃借権については石川が所有者時代から同人と被告間に賃借権消滅の有無について紛争が生じ、相争つていたところ、右の如く下田が本件建物所有者となるや今度は同人と被告間の紛争となつたこと、

(2)  ところが、下田は岩橋勝一郎の妾であつて、右の如く本件建物の所有名義人とはなつたけれども、同建物を買受けたのは岩橋であり、ただ同人は便宜上同建物を下田に所有せしめることにして、同人名義に登記したものであつて、実質的には右岩橋が全ての実権を握つていて、下田と被告間の紛争はいつてみれば、岩橋と被告の紛争のようなものであつたこと、

(3)  昭和二九年一一月一七日当時、被告は本件建物に居住はしていなかつたが、留守番として使用人田村与四郎夫妻に居住させ占有をしていたところ、下田は被告と右田村を債務者として仮処分申請をなし、同日「債務者らの占有を解いて執行吏に保管を命ずる、執行吏は現状を変更をしないことを条件として債務者らにその使用を許さなければならない、債務者らはその占有を他人に移転し、又は占有名義を変更してはならない」等の趣旨の仮処分決定を得(昭和二九年(ヨ)第八九八六号)、同日その執行をなしたこと、

(4)  岩橋は本件建物をナイトクラブ若しくは飲食店店舗に使用する目的で下田の名義で買受けたのであるが、右の如く本件建物は被告が占有しており、賃借権の存在を主張して明渡さないため、前(3) 項のような仮処分をするなどして訴訟手続による解決もとりつゝあつたところ、岩橋は約三五〇万円程の貸金債権者であつた志賀竹夫から昭和三〇年四月頃本件家屋を同人において使用することを承諾させて欲しい、そして右債務額相当の利益を得たならば本件家屋は岩橋に明け渡すから、との申入れを受けた。岩橋は一応志賀に対し、本件家屋は被告が占有していてこれを排除することができないことを伝えはしたけれども、志賀は街の暴力団の一味にも関係を有する者であつたので同人の右申入れを容れることが被告の占有を排除するという目的を簡単に達せられるとの考えから右志賀の申入れを承諾した。そこで志賀は他二名の者と共に同年五月一一日夜前記田村が被告の留守番として居住している本件家屋に至り、田村の意思に反して入り込まんとしたが、警察官に阻止されて、その場は目的を達せられず引揚げた、しかし更に同月二六日午後四時頃再び志賀は他二名と共に本件家屋に来り、偶々田村の妻が一人でいるを幸いに同女の制止にもかゝわらず本件家屋にあつた被告名義の表札を取外したり、被告において本件建物は自己が権利を有する旨の貼紙を破るなどした。ところが志賀らが右のような行為をなし終つて間もなく執行吏が、下田が志賀と田村を債務者として申請して得た仮処分決定、即ち「債務者志賀竹夫の本件建物の中、一階、二階、中二階、債務者田村与四郎の同建物の中、三階に対する占有を解いて債権者の委任した執行吏にその保管を命ずる。執行吏はその現状を変更しないことを条件として債務者等にその占有部分の使用を許さなければならない。但しこの場合においては執行吏はその保管に係ることを公示するため適当な方法をとるべく、債務者等はこの占有を他人に移し、又は、占有名義を変更してはならない」趣旨の仮処分(昭和三〇年(ヨ)第二八五八号)の執行のために到着し、志賀と、田村の妻立会のもとに執行に着手したところ、同女は本件家屋は全部につき、被告が権利を有するものであると述べたが志賀は本件建物を何ら占有もしていないのに、自己夫婦とその子一人が居住し、他に占有者のない旨述べたため、執行吏は十分占有関係の調査もしないまま右志賀の言を信じて右仮処分決定どおりに執行をなしたこと、志賀は右執行後も、本件家屋には自らは居住せず、留守番として坂本達を居住せしめていたこと、

(5)  一方、岩橋は前記(3) の仮処分について依頼した弁護士が居るのにかゝわらず、同弁護士のところへは行かず、知人の紹介で同年四月頃弁護士平林正三に前記(4) の如く志賀からの申入れについて相談を持ち込んでいたところ、志賀が第一回目に本件家屋に侵入せんとし失敗した翌昭和三〇年五月二二日このことを知りながら同弁護士に、志賀が本件建物に侵入したと言つて同人に対する仮処分を依頼して翌二三日前記(4) の仮処分を申請し、同月二五日その仮処分の決定を得るや、同日前記(3) の仮処分執行の解放申請をしてこれを解放したうえ、翌二六日前記(4) の如くに同項記載の仮処分の執行をしたこと、

(6)  以上によつて被告は本件建物に対する使用ができなくなつてしまつたため、先ず志賀に対し仮処分を申請し同年六月二日「債務者志賀の本件建物の占有を解いて執行吏にその保管を命ずる。執行吏はその現状不変更を条件に債務者にその使用を許さなければならない。債務者はこの占有を他人に移転し、又は占有名義を変更してはならない」旨の仮処分決定(昭和三〇年(ヨ)第三〇八九号)を得て、同月三日同仮処分を執行した後、前記(4) の仮処分執行中志賀に対する執行処分に対し、これが被告の占有を無視したものであるとの理由で執行方法に関する異議を申立て、同年八月二日右異議が認められて右執行処分の取消決定を受け、これに基いて、同月三日、同執行処分の取消をなし、更に本件仮処分を申請して同月九日その決定を得、同月一〇日前記昭和三〇年(ヨ)第三〇八九号の仮処分執行を解除すると同時に本件仮処分執行に着手し、同翌一一日同執行を終了したこと。

(7)  その後、原告らは競落により本件建物の所有権を下田から取得したものであるが、右原告らが支払つた競落代金六〇四万円は全て岩橋の負担において支出しており、又、岩橋は関沢靖策から志賀、下田を連帯債務者として金融をうけ本件建物につき昭和三〇年三月一〇日抵当権設定をなしていたところ、百八、九〇万円の債務の弁済ができず同抵当権が実行されることとなつたので、岩橋は自己において本件家屋を競落すべくその代金を芝商工信用金庫から融資をうけたが、自己の名で競落せず原告山本に依頼して同人の名で競落させることにし、更に右同金庫の債権確保の手段として、当時同金庫の職員であつた原告高柳を競落人に加え、結局、原告らが共同して競落したものであつて、原告らは本件建物の所有権を取得することはしたけれども、原告ら自身には本件建物についての所有権者たることに経済的な関心は殆んどなく、本件建物の所有権につき岩橋が最も実質的な経済的利害を有し、更に前記芝商工信用金庫が岩橋に対する融資金回収確保という意味で利害を有していたものであること。

(8)  本件訴訟についての弁護士の報酬、費用等経費は一切岩橋が支出している。

以上の事実が認められ、証人岩橋勝一郎は右(4) の点につき、志賀から同認定の如き申入れを受け、これを拒絶したにもかかわらず同人が勝手に本件建物に侵入したため同人に対し仮処分をなしたものである、と供述するけれども右認定の如く平林弁護士に仮処分申請を依頼したのは志賀が第一回目に侵入せんとして警察官に阻止され失敗した翌日たる昭和三〇年五月二二日であつて、当日は志賀が未だ本件建物を占有するに至つておらず、岩橋はこのことを知りながら志賀に対する仮処分を依頼していること、そして同月二五日仮処分決定をうけるや、先に下田から被告に対してなしていた前記(3) 認定の仮処分を解放し、翌二六日前記(4) 認定の仮処分執行をなしたものであるが、同執行のため執行吏が本件建物に到着する直前に志賀が他二名の者をともなつて、本件家屋に至り、被告の表札等を取外し、あたかも自己が占有しているかの如く装い、執行吏にもその旨述べて執行をなさしたものであつて、若し、岩橋の右供述部分が真実ならば、志賀が占有もしていないのに仮処分のようなことしないであろうし、又、占有しているものと思つていたとしても、仮処分を執行するなどということは執行の時まで極力隠すのが通常であるにもかかわらず、右の如く全く計画的とも思われるように志賀が

本件建物に侵入して来たことなど考えると到底右岩橋の供述部分は措信できず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

しかして後記(二)項の判断を度外視しても、以上認定の事実を総合すると、本件建物につき実権を握つていた岩橋は被告の占有排除を訴訟等により求めていたが、容易に目的が達せられなかつたところ、偶々暴力団に関係のある志賀から前記認定のような申入れをうけるや、同人と相謀つたうえ、同人が何ら本件建物を占有していないのに、その占有がある如く虚偽の事情を弁護士に説明して同弁護士をして志賀に対する前記(4) のとおり仮処分を申請せしめて、同項の認定のとおりの内容の仮処分決定を得、同執行に際しては志賀において執行吏に虚偽の説明をなし、結局において被告の占有を仮処分執行の名において排除したものであると認めるのが相当である。しかるところ、かような岩橋や志賀の行為は計画的に裁判所や執行吏等司法機関を欺罔し、仮処分という法律手続を利用して被告の占有を排除したものであつて、著しく公序良俗に反するものというべきである。しかして本件仮処分執行が右の如き岩橋や志賀の行為によつて被害を受けた被告が自己の権利を回復すべくなされたものであることは前記(6) 認定のところから明らかであり、これに対し右岩橋は本来なら自己において異議を主張しうべき権利を有していたとしても、右の如き事情が存する以上、この権利を主張して被告の本件仮処分執行の排除を求めることは権利の乱用であり公序良俗違反であつて許さるべきではない。

しかるところ、本件訴訟は岩橋が提起したものではないから、岩橋について存する以上のような事情は直ちに原告らの本訴提起に影響を及ぼすものではない。しかしながら原告らが本件建物についての所有権取得についての前記(7) 認定の事情及び前記(8) 認定の事実並びに弁論の全趣旨からすれば、本件訴訟の提起は原告らの意思に基くものであろうけれども、それ以上に岩橋の意思が大きく作用しており、本件訴訟の結果に最も実質的な利害をもつているのは、岩橋であつて、少くとも現在においては原告ら自身は訴訟の結果に殆んど関心はなく、本件訴訟の追行者も実質的には岩橋であり、原告らはただ法律上本件建物の所有権者であるというだけの理由により原告としての地位にあるにすぎず、したがつて、本件訴訟において原告らが勝訴した場合の経済的利益は専ら岩橋に帰属するものと推認される。

しからば、若し岩橋について存する前記の如き事情を全て捨象し原告らを勝訴さすにおいては結果的に岩橋の所期の目的を達することになり、これは公序良俗に反する行為をして他人の権利を侵害しながら、その行為によつて受けた侵害の回復を図らんとする被侵害者の権利回復措置を措止するのを裁判所が認めるに等しくなるのみならず、原告らの本訴提起、維持は少くとも岩橋の右の如き目的達成を是認し、これに協力するものであることは明らかであるから、前述の如く原告ら自身には本件訴訟の結果により生じうる実質的な利害は殆んど帰属しない以上、原告らが所有権を主張し、被告のなした本件仮処分の執行に対し異議を主張し、その排除を求めることはやはり権利乱用であり公序良俗に反するものであり、これを許すべきでない。

もつとも被告が本件建物につき占有すべき権原があるか否かについては争いのあること明らかであるけれども、少くとも被告は元は賃借権を有し、これを正当な権原に基いて占有していたことは当事者間に争いがなく、かつ前記認定のとおり占有は継続していたのにかかわらず、これを前述の如き手段により排除されることは占有権を侵害されたものというべく、権利を侵害されたというを妨げない。

以上の次第でこの点の被告の主張は理由がある。

(二)  のみならず、原告らはすでに本件建物の所有権を失つている。

即ち、

被告の主張(九)のとおりに本件建物につき登記がなされていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証、証人落合義男の証言、原告ら各本人尋問の結果によれば、原告山本はその持分二分の一を昭和三一年九月二六日、梁万基に代金二五〇万円で売却し、その旨の公正証書も作成したこと、原告高柳は前記認定の如く本件建物を競落するにつき岩橋に融資していた芝商工信用金庫の同人に対する融資金回収を確保するため同金庫から依頼されて競落人となつたものであるところ、同金庫は共同競落人である原告山本がその持分を他に譲渡し、これが更に転々他に譲渡されて落合義男に移転していることを知り、日本土地建物株式会社に問題解決について協力を求め、話合の結果、同会社が右落合及び原告高柳からそれぞれ持分権を譲り受け、合わせて単独所有権とし、これを他に転売することにより同金庫が岩橋に対する前記融資金を回収することとなり、原告高柳はこれを承諾して、自己の持分を昭和三二年四月二六日同会社に譲渡したことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

そうすると、原告らは本件建物について所有権を有せず、本件仮処分執行に対し異議を主張することはできないというべきである。

もつとも原告らが本件建物の競落人となつたのは以上述べたような事情によるものであり、証人岩橋勝一郎の証言によれば、右原告らの各持分権譲渡について岩橋に無断でなされたものであることは認められるけれども、本件建物を原告らが競落するにつき右のような事情が存したとしてもこれは原告らと岩橋間の内部的な関係に止り、法律上は競落により所有権を取得したものは原告らであると言わざるをえず、しからば、この原告らが自己の意思に基き各持分を他に譲渡しその登記を経た以上、その譲渡は有効で、譲受人はその権利を取得するものというべく、仮りに岩橋が原告らに対し所有権を主張しえたものであつたとしてもその対抗要件も具備していないものである以上、譲受人や本件建物の仮処分債権者たる被告などの第三者に対しては、自己の権利を主張しえないものであるから、右のごとき原告らの岩橋の関係及び原告らの持分権譲渡が岩橋の意思に反するのであるとしても、これをもつて前記結論を左右するものではない。

三、以上の理由により原告らの本訴請求は失当であるから、これを棄却すべきである。

第三、参加人の請求についての判断

一、被告の本案前の抗弁の検討

(一)  同抗弁(一)について

被告は本件参加申立は原告ら及び被告双方を相手方としてなされたものであるところ、原告らの訴訟代理人である弁護士広瀬通が参加人の代理人として提起したものであるから右弁護士の行為は弁護士法に違反すると主張する。

そして、参加人提出の昭和三七年四月九日付当事者参加の申立書の前文中には、「原告ら及び被告を相手どり当該訴訟に参加すべく左のとおり申出ます」なる文言の記載があり、又、請求趣旨中にも「訴訟費用は原告及び被告の負担とする」なる記載がある、しかし同申立書に記載されている請求の趣旨は被告に対し本件仮処分執行の不許を求める趣旨のもので、原告らに対する請求は記載されておらず、更に、参加人は昭和三七年六月一一日「参加申出の趣旨並びに原因についての補正申立書」を提出し、同書面で被告のみを相手どるものであることを明らかにし、先に提出した参加申立書に前記の如き多少不明確な点があつたのを訂正して明らかにし、同日両書面が陳述されたものであつて、これらの事実からして参加代理人が提出した最初の申立書に多少誤解を招くような記載があつたとはいえ、その目的とするところは被告のみを相手方とするもので、原告らは相手どつていないものというべきである。

したがつて、原告らの訴訟代理人である弁護士が参加人の代理人となつて参加申立をしたとしても対立当事者双方を代理したものということはできないから被告のこの点の主張は理由がない。

(二)  同抗弁(二)について

参加人は落合、佐藤に本件建物の所有権があると主張して、同人らの権利を行使するというのであるが、同人らと原告らとの間には本件建物の所有権について争いがあり、かゝる場合は原告らと被告双方を相手方として参加申立をすべきであり、被告のみを相手方とする本件参加申出は不適法であると主張する。

しかして、参加申立の理由が右被告主張のとおりであること、並びに本訴において原告らは現在も自己らが本件建物の所有者であると主張していることは明らかであるけれども、証人岩橋勝一郎の証言によれば、昭和三一年八月一七日本件仮処分執行が取消された直後頃から同人が中心となつて本件建物を使用して酒場やナイトクラブを営業すべくその営業目的に副う有限会社設立の計画が進められ、間もなく岩橋勝一郎、下田千代、原告高柳他一名の四名が社員となつて参加会社の設立をみるに至り、原告高柳、下田が代表取締役に就任したことが認められ、この事実と本訴において述べた原告らと岩橋の関係並びに参加人提出の参加申出書にある後記(三)項の如き記載について、昭和三八年二月五日の口頭弁論期日に参加代理人が右記載は本件参加の動機を表すものである旨陳述していることなどを合わせ考えると参加会社はいわば岩橋が主になつて主宰する個人会社のようなもので本件参加申立は本訴において原告らが所有権喪失を理由に敗訴すれば参加人も本件建物の利用が阻害されるため、これを虞つて予防的手段としてなされたものであると認められる。

さすれば原告らの主張と参加人の主張するところは相反し一見争いの存する如くに見えるけれども、実質的には両者の間に利害は対立しておらず、かえつて共通の利害を有するものであつて、参加人と原告ら間においては訴訟上解決すべき争いは何も存しないのである。

しかして、民事訴訟法第七三条、第七一条による参加は右のような場合においては原告らを相手方としなくても差支えないものと解するから本件参加申立が原告らを相手方としていないことをもつて不適法ということはできず被告の主張は理由がない。

(三)  同抗弁(三)について

被告は本件参加申立は条件付になしたものであるから不適法であると主張するところ、参加申立書中には、原告らの被告に対する本訴請求が認容されないことを条件として本件参加を申立る趣旨の記載がある。

しかしながら、仮りに右をもつて条件付に参加申立をなしたもので瑕疵のあるものであつたとしても、参加代理人は昭和三八年二月五日の口頭弁論期日において申立自体を条件付にするものではない旨陳述しているからこれをもつて右瑕疵は治癒されたものといえる。したがつてこの点の被告の主張は理由がない。

(四)  同抗弁(四)について

本件参加申立は、本件建物の所有権者落合、佐藤に代位してなしているものであるから、参加人は非訟事件手続法第七五条による裁判所の許可を得なければ参加申立をなすことができないと主張する。しかし、本件参加申立が前述のとおり落合、佐藤に代位して同人らの本件建物に対して有する持分権を理由に本件仮処分執行の不許を求めるものであるけれども、債権者が債務者の権利を代位行使するにつき裁判所の許可を要する場合は債権者の債権がその期限前に債務者の権利を代理行使するときのみであつて、本件参加は参加人において右落合、佐藤に対し、本件建物につき賃借権を有し、これを保全するため、右両名の権利を行使すると主張しているのであつて、何ら期限未到来の債権を理由に代位権を行使しているものではないのであるから、裁判所の許可は必要としない。したがつて、この点の被告の主張は理由がない。

(五)  同抗弁(五)について

被告は、落合、佐藤が参加人の賃借権を承認していないから本件参加は不適法であると主張する。

しかし、債権者は債務者の権利を代位行使して第三者異議の訴を提起することもでき、この場合債務者が債権者の債権を承認していることは必要ではないと解すべきであるから被告の主張は理由がない。

二、本案についての検討

(一)  請求原因(一)については当事者間に争いがない。

(二)  そうすると、原告らは本訴提起当時は本件建物につき各二分の一ずつの持分を有していたものであるが、その後各持分は同人らから順次譲渡され、現在落合、佐藤が各二分の一の持分を有していることとなる。

しかして、参加人は右のように仮処分執行の目的物たる本件建物の所有権が譲渡されたときはその譲受人は本訴の訴訟の目的たる権利を譲受けたことになると主張する。そして同主張はそのかぎりにおいては正当なものである。

しかしながら、本訴について述べたとおり本件仮処分執行は昭和三一年八月一五日本訴提起にともなう仮の処分としてなされた取消決定に基き同月一七日執行は取消執行がなされたことは明らかであり、そうすると落合、佐藤はその後に本件建物の持分を取得したものである。しかして、かように仮の処分として仮処分執行が取消された後においてもその当事者及びその一般承継人の間においては、なお第三者異議の当否について判断をうくべき利益があり、裁判所はなおその異議の当否に付審理を遂げ、判決をなすべく、執行処分が存しないとの理由により原告の請求を棄却すべきではないけれども、執行処分取消後にその目的物を譲受けた者は、執行処分取消については全く関係のないものであり、その責任を仮処分債権者から追求されるおそれもなく、又執行処分の取消は終局的なものであつて、後に至つて執行処分を取消した仮の処分が取消されたとしても、当然に取消前の状態に回復するものでもないのである。

もつとも、仮処分債権者から再度同一目的物について仮処分を申立て、その執行を受けるようなおそれがないとは言えず、かような結果を防止するため、異議の当否を確定する必要が存すると言えないこともないが、その必要は執行処分の取消を自ら得た当事者については大きい場合もあろうけれども、自ら取消を得たものでなく、かつ執行処分取消後目的物を譲受けたような者についてみれば、その必要性は仮りにあつたとしても、未だ現在するものとは言えない。

したがつて、かような執行目的物の譲受人はすでに取消されている執行処分に対しこれが自己の権利を侵害するものとして異議を主張しえないものと解すべきである。そうすると参加人の被告に対する請求は右の点において理由がないものといわざるをえない。

(二)、のみならず、参加人の主張によれば、参加人は昭和三一年一一月一三日設立された有限会社であるところ、その設立前発起人であつた岩橋勝一郎が発起人たる地位において本件建物につき、原告らがその所有権者であつた当時原告らと賃貸借契約を締結し参加人は設立と同時に賃借権を取得したというのである。

しかして、証人岩橋勝一郎の証言により成立の認められる甲第二八号証並びに同証言によれば一応右主張の事実が認められるところ、右参加人の主張は本件建物の賃貸借契約は岩橋が設立中の参加会社の発起人の資格で設立中の参加会社のためになしたものとの主張と解されるが右行為は右各証拠によれば参加会社の開業準備行為としてなされたものと認められ、これは有限会社の設立自体に必要な行為に当らないというべきであるから設立中の有限会社の機関としての発起人の権限に属しないものである。したがつて有限会社法第七条、第三号所定の事項を定款に記載したことの主張立証のない本件では右賃貸借契約は参加会社に対し当然にはその効力を生ずることはない。

又若し発起人岩橋が設立中の参加会社のためになした右賃貸借契約を、第三者のためにする契約であると解するとしても強行規定である有限会社法第七条の手続を経ないで直ちにその効力を認めることは脱法行為になるものであるから、その効力を認める余地は存しない。

そうすると参加会社は、落合、佐藤に対し賃借権を有しないこととなるから、参加会社の被告に対する請求はその余の点を判断するまでもなく失当である。

第四、結論

以上のとおり、原告ら並びに参加人の請求は全て理由がないからこれを棄却することとし民事訴訟法第八九条、第九三条、第五四九条、第五四八条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西山要 中川哲男 岸本昌己)

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